男は扉の前に居た。この扉を開ければ暗闇から出られる、男はそう感じていた。そしてこれが暗闇から抜ける最後の機会であることも分かっていた。
「グリーンドリアン・・・」
男は再びこの言葉を口にした。彼は扉を開けるか迷っていた。暗闇もグリーンドリアンも彼にとっては恐ろしいものに感じられた。ふと、男はあるものに気が付いた。それはグリーンドリアンの奥に隠れた明るい光だった。
「熟・・・」
男はその言葉を口にした。
「・・・女」
深夜4時を回った。暗黒の空は徐々にに青みを帯び始め、眠い車掌は駅へと向かう。今日もまた何の変哲もない日常が繰り返されるのだろう。やりがいのない日々、けれど確かに幸せはそこにはあった。車掌がそのことに気が付いた時にはすでに、おびただしい量のねばねばが目の前に迫っていた。
時間は一時間前にさかのぼる。それはグリーンドリアンが倒れているナットウマンの口にドリアンを近づけた時に起こった。
「ああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
突然ナットウマンが叫び出すと、ドリアンを奪って走り出したのである。突然の出来事に一瞬意識が宇宙へ飛んで行ったグリーンドリアンであったがすぐに現世に舞い戻り、逃げる化け物を追いかけ始めた。
「待てナットウマン!どういうつもりだ!!」
話しかけるが返事は無い。まるでゴキブリのようだ。
ゴキブリは自身の体液と納豆のねばねばが混ざった液体をまき散らしながら走る。これによりグリーンドリアンは度々バランスを崩した。元々グリーンドリアンは足が速いほうであったけれど、ナットウマンとの距離は次第に離れていった。ような気がしたけど別にそんなことは無かった。ナットウマンはすぐに捕まった。
「捕まえたぞナットウマン!!ドリアンを捨てようとでもしたのか。憎たらしい奴だ!!」
グリドリはそう言ってドリアンを奪い返した。ドリアンの帰還である。しかし慣れ親しんだドリアンの感触は伝わってこない。不思議に思い手元を見る。冷たい月明かりが照らしたのは、先程までのはつらつとしたドリアンではなかった。そこには不気味な色に変色した気持ちの悪いドリアンが、悲しげな目でこちらを見ていた。
「何をした貴様ァアアアアアアアアア!!!!!」
グリドリの怒号が天を破る。近所に住んでいたブラウンさんはその余りの大声に驚いて、寝返りを一つ打った。
「これは納ドリアンさ。」
得意げにナットウマンは答えた。
ちなみに納豆は英語で"natto"であり、ドリアンは英語で"durian"であるから、この時ナットウマンは"It's a nattorian."と言ったという説が多くの研究者の間で支持されている。しかし筆者はあえて新たな説を提唱したい。確かに"natto"は納豆を表す単語である。ところが英語において、"fermented soybeans"も納豆を意味する。納豆をあらわす単語が"natto"しかないのであればこの単語を使うだろうが、そうではないのにアメルカ人かぶれのナットウマンが"natto"などという日本語から来た単語を使うだろうか?いや、使うまい。ゆえに筆者はこのときナットウマンは、"It's a fermented soydurians."と言ったと考えている。ぜひ読者の皆様にはこの言葉を積極的に使っていって貰いたい。
そんなこんなで大量のねばねばが街に降り注いだのであった。車掌はすぐにシャワーを浴びたが、その日一日は口に入れるもの全てが口に入れたとたんに納豆に変化してしまったようである。また、グリーンドリアンはドリアンが駄目になったショックで風邪をひき、3日間寝込んだ。
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