2012年10月20日 アメルカ、カルフォルニア州研究科学施設―
「ジリリリリリリリ」
突如発せられた警告音。この警告音は研究所のある施設が爆発したことを意味する。
「早く火を止めろ!」
研究施設D‐5では職員が消火にあたっていた。研究施設D‐5の管理をしていたジョン・ボビー博士は頭を抱えた。
「なんてことだ!私の研究が全て吹っ飛んでしまった!」
ジョン・ボビー博士は細菌兵器の研究をしていた。その研究が全て爆発で吹っ飛んだのだ。爆発の原因である職員(26歳独身)は申し訳なさそうに博士の前をうろうろした。
 このことはすぐにマスコミに知れ渡った。細菌兵器がばら撒かれたというニュースは世界中の国民を震え上がらせた。国民はもちろん、政府関係者、研究施設の関係者ですら、博士が何の菌を研究していて、それがどれだけ恐ろしい菌であるのかを知らなかった。博士は一部の人間にしか研究内容を明かしていなかったのである。カルフォルニア州から人はいなくなった。無人と化したカルフォルニアはまるでゴミのようだった。この事件を収集するために世界中の生物学者が駆り出された。しかし、どの生物学者も菌の種類が分からない以上、対策のしようがなかった。
 ついにアメルカの警察が動き出した。
「いったい何の菌だったのだ!感染した人間はどうなる!」
アメルカの警察はジョン・ボビー博士を問い詰めた。
「感染力はない。」
博士は落ち着いて答えた。
「じゃあ、その菌はいったい何をするのだ?」
「あの菌は世界で一番発酵能力が高い。」
「発酵だと?どういう意味だ・・・」
予想外の博士の回答に警察は動揺した。
「あの菌は納豆菌だ。」
博士は真顔で答えた。





ナットウマン 第一話 
〜納豆の臭いが好きな奴は基本的に性根が腐っている。〜
物部守谷



 深夜0時をまわったところだろうか。一人の男が夜の街を駆けていた。
「ふぅ、ふぅ・・・。ここまでくれば大丈夫か。」
男は街のはずれで足を止めた。手には大きな黒い鞄。中には先ほど盗んだ金の延べ棒が詰まっていた。
 男は壁に寄りかかり鞄を覗き込んだ。
「これで、俺は自由になれる・・・」
男はそう呟き、煙草に火をともした。
「ああああああ!!!!!」
突然、変な音が男の耳に届いた。
「何だ!?」
男は慌てて周りを見る。警察に見つかったのか?しかし周りには誰も居ない。
「気のせい・・・か?」
男は再び煙草を口に入れた。
「ああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
再びあの音が聞こえた。
「何だ!誰かいるのか!?」
そう怒鳴った瞬間、空から何かが降ってきた。
「うおおおお!!!!!」
男は驚いて後ずさりする。空から降ってきたその物体は、ネチョッ、ネチョッと気味の悪い音を立てながら男に近づいてきた。辺りには臭い臭いが漂う。
「やめろ!こっちに来るな!!」
男は持っている鞄を振り回した。
「お主、人のものを盗むのは良くないでござろう。」
その物体はそう日本語で言いながら立ち上がった。
「ひぃっ!何なんだお前!エイリアンの類なのか!?」
男は怯えながら言葉を振り絞った。
「お主、人のものを盗むのは良くないでござろう。」
その物体は流暢な英語で再びそう言った。
「悪いことをするやつは、納豆菌に代わってお仕置きよ!」
そう言うと、その汚い物は指の先から大量の菌糸を男に向かって放った。
「ぐわっ!や、止めろ!」
男がひるんだ隙にその化け物は男のかばんを奪って逃走した。男は一瞬ひるんだものの、盗られたのは大事な鞄だ。化け物を追いかけて後ろからつかみかかった。
「てめぇ!この鞄を離しやがれ!」
男は化け物の腹に何発も蹴りを入れた。化け物の体は全体的にヌルヌルしていて、とても気持悪かった。
「納豆スパーク!」
そう言うと、突然化け物は体を掻き回し始めた。体のヌルヌルが増え始めた。
「!?」
男は驚いて化け物から離れた。
その直後、化け物はヌルヌルを利用し、体当たりをしてきた。その姿はやたら黒光りしていて、まさに“スパーク”。男は宙を舞った。意識の薄れる男の鞄を手にして、その化け物は立ち去った。男は最後の力を振り絞って叫んだ。
「おまえは何者だ!何でこんなことをしている!?」
「私の名はナットウマン。納豆菌の名にかけて悪を成敗した!」
そう言って化け物は姿を消した。




「また出たらしいぞ。ナットウマン。」
入浴対武事新聞社の記者Aは同僚の奈津藤真に言った。奈津藤真はナットウマンのファンなのだ。
「本当か!?嬉しいな。」
「ついに懸賞金がかけられたよ。」
記者Aは今朝の新聞を読みながらそう言った。
「何の懸賞金かい?写真?」
奈津藤真はワクワクしながら尋ねた。奈津藤真はナットウマンの写真を1枚だけ持っていたのだ。
「指名手配だ。」




奈津藤真は帰り道何も話さなかった。いつもは目をキラキラさせながら独り言をぶつぶつと呟いているのだが。
「なんでナットウマンが指名手配なんだ。悪い人間から金を奪っているだけじゃないか。」
奈津藤真は今日初めて独り言を呟いた。その時だった、彼の指先が疼き始めたのは。
「う、疼く!指先が!疼く!」
そう言うと、奈津藤真はフルスクを5〜6粒口に詰め込んだ。
「はぁ、はぁ・・・。やばい。あいつが!あいつがやってくる!!」
奈津藤真は頭をかきむしりながら、家に向かった。





翌日

「何だこれは・・・」
コロビー警部は事件現場を見て愕然とした。
広い部屋の真ん中に男が一人死んでいた。辺りには臭い臭いが漂う。
「またナットウマンの仕業ですかね・・・??」
新米の刑事が警部に尋ねた。
「お前は鼻が悪いのか。」
「鼻・・・ですか??」
「この臭いは納豆の臭いじゃない。」
警部はそういって腰を下ろした。
「ドリアンだ。」
「ドリアンですか??」
「そうだ。今度はドリアンか。人が一人死んでいるし嫌な予感がするぜ。」
警部は葉巻を口に入れた。



グリーンドリアンが世間を騒がせ始めたのは、それから3日後のことである。




第2話に続く
トップへ
トップへ
戻る
戻る